第84章

外の人間は妙に辛抱強い。ドアが開くまで、いつまでも叩き続けるつもりらしい。

大島莉理は通話ボタンを押した。

「ピッ」という電子音のあと、画面の向こうから田中尚哉の声が響く。

「やっぱり家にいると思った」

「何か用?」

「入れてくれないのか?」

大島莉理はぬるい白湯のカップを抱え、玄関の下駄箱にもたれて、気だるげに言った。

「ここ、私の家よ。入れたくない相手は、入れない」

「俺は君の夫だろ」

夫――その文字が耳に入った瞬間、胸の奥で皮肉が弾けた。もういい加減うんざりだ。これ以上、言葉遊びに付き合う気もない。

田中辰哉は弁護士を探してくれると約束してくれた。なら、離婚の話だっ...

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